本と珈琲、ときどきチョコレート

観たり、聴いたり、心が動いたり…日々の記録

『天才はあきらめた』

最近、こどもの教育に大切なのは、“GRIT(やりぬく力)”だ、とよく耳にするようになった。

『GRIT-やりぬく力-』はアメリカの心理学者アンジェラ・ダックワース氏の著書。

この本では、人生で何かを成し遂げるために大切なことについて、“情熱”と“粘り強さ”が挙げられていた。

ほんと、そうだなぁ…って思う。

そして、私が周りの人を見て思うのは、何かを成し遂げて、挑戦し続けるために大切なことは、“情熱”“粘り強さ”、そして“出会い”なのかなぁって思う。

また、自分のことや周りのことを知っている(知ろうとする)こと、何が自分にとって楽しいかわかっていることも大切なんだろうなぁって思う。

 

そんなふうに思ったのは、『天才はあきらめた』(山里亮太/著、朝日文庫)を読んだからだ。

 

この本、すごい。

こんなに赤裸々に自分の内面をさらけ出して、嫉妬やどす黒い気持ちをさらけ出して、でも、(山ちゃん好きだなぁ…)って思わずにいられない。

読みながら「山ちゃん、ひどい!」って思いながらも、なんで惹かれちゃうんだろうって思った。

 

若林さんの解説を読んで、あぁそうか…って腑に落ちた。

「日々の仕事や生活で負った傷を、彼は隠さずに見せる。恰好いいところだけじゃなく、耳を塞ぎたくなるような情けない話やみっともない姿も見せてくれる。そういう血まみれになりながら闘っている姿を、ファンの皆さんは信頼しているのだろう。そういう人間は信用される」(p.251)

 

みっともない姿を見せながら、それをみとめながら、でもそんな自分を超えようとしている。

 

そういう姿って美しいんだよなぁ。

 

嫉妬やどす黒い感情は誰にでも起こることだと思う。

 

それを隠したりみとめなかったりするのではなく、

何かを攻撃するのではなく、

「どうせ自分なんか…」と挑戦しない言い訳にせず、

前に進む燃料にしていく。

自分を超えていく力にする。

 

あ、そうか。

だから、この本はたくさんたくさん嫉妬やどす黒い感情が描かれていても、

明るい光を感じさせるのか。

 

ほんと、元相方さんやしずちゃんへの行いはよくここまで書けた…って思う。

「自己嫌悪になるほどの僕の卑しき感情たち」(p.3)がしっかりと書かれている。

 

そして、私は、山ちゃんのお母さんがとても好き。

たくさん好きなエピソードがあるけれど、

なかでも、

山ちゃんがクラスで唯一高校受験に失敗して一人で先に帰宅した時、「あんたがいたら盛り上がりづらいもんねぇ。そういう気を遣えるところ偉いねぇ」と褒めて、あとは受験のことは触れず、山ちゃんが好きなカレーライスを作りに台所に戻っていったという話がとても好き。

 

山ちゃんのお母さんは、〈信じられないところから褒め言葉をもってくる人〉だ。

山ちゃんが壁にぶつかっても、嫉妬の嵐の中でも、絶望せず、「自分はスゴイ!」って進んでいるのは、お母さんの影響があるんだろうなぁって思う。

 

私は息子の傷口を拡げてしまうことが多いので、山ちゃんのお母さんは本当に素敵だし、そんなお母さんに育てられた山ちゃんは幸せだよなぁって思う。

 

あらためて、親の役割ってこどもに「あなたは大丈夫」って言うだけで充分なんじゃないかなぁって思った。

 

山ちゃんの大切な出会いの一つ亀井さんの言葉も印象的だ。

「運もあるかもしれない。ただ、自分の道を一生懸命に走っていると、人は必ずそこに引き寄せられていくものだ」(p.147)

 

ほんとうにそう。

情熱を持って一生懸命走っていると、プレゼントのような良い出会いがある。

 

そして、走ること、続けることって辛いときもあるけれど、そこに楽しいって感情が湧くとぐっとスピードや深さが増してくる。

 

だから、置かれている状況を楽しめることってとても大切なことなんだよなぁ。

そして、自分にとって、何が楽しくて、何が楽しくないか、それをわかっておくことも大事。

 

良い本。

でも読む場所に注意です。

ワタシ、健診の静かな待合室で思わず吹き出して笑ってしまい、何度もヤバいって思いました。

マスクしてて良かった…。ニヤニヤが止まらなかったから…!