『翼の翼』
『翼の翼』(朝比奈あすか著、光文社)を読んだ。
(以下、ネタバレも含む感想です)
この本、読もう読もうと思いながら、怖くて手が出せなかった。きっと本の中に「私」がいると思ったから。
やはり「私」がいた。
読み始めたら頁を閉じることができなかった。
読みながら、「ひどいひどい!」と声を挙げたり、ボロボロボロボロ涙がこぼれた。
読んだ後ズシーンと胸が重くなって、怒りや悲しみやいろんなものが渦巻いて、苦しくなった。
でも、読んで良かった。
2022年、自死した小中高生は514人で過去最多になったという。
その異常事態が、この小説とともに胸に突き付けられる。
翼くん、よく生きていてくれた…。
その翼でどうかこの家から飛び去ってほしいよ。
感想を書こうと本を開くと、ムクムクムクムク腹が立って、冷静さを失ってしまって、
うまく感想が書けない。
こどもを思い通りにしようとする親がいて、
それに応えようとするこどもが本当にかわいそうだ。
家庭の中で愛という仮面をかぶった人権侵害が行われている。
今年初めから、私の中で響き続けている言葉がある。
「あなたは、こどもをバカにしていませんか?」
こどもを自分の思い通りにしようとしているとき、
自分とこどもの境界がなくなっているとき、
こどもをコントロールしようとしているとき、
この言葉が私を正気にさせる。
「あなたは、こどもをバカにしていませんか?」
幸い、息子は私が思い通りにしようとしたり、侵蝕しようとしたり、コントロールしようとしたら、猛烈に反発し、反抗する。
「おこさんが明日葉さんに反抗していて安心しました」と言われた時、ハッとした。
そうだ。こどもの反抗は、未熟な私へこどもがこどもの世界や想いをぶつけていることなんだ。
この本の翼君は本当に〈良い子〉で、母に侵蝕されてしまう。
もう、この母親、そして父親もほんまに腹立つ!!夫方の祖父母もな!!
くだらねえ奴ら。
こどもを自分達のおもちゃにして。こどもを潰すやつら。
ちいさな子たちを競わせて追い詰めて、一体何を得ようとするんだろう。
こどもを使って自尊心を高めようとするなんて…、嫌悪感が湧く。
一度中学受験という列車に乗ると、降りられない。
すごくよくわかる。
それは本当に狭い狭い世界のことなのに。
「こどもが望んだから」そう言って、親は自分の行かせたい道にこどもを誘導する。
こどもって、親の想いを汲むのが本当に上手だ。悲しいくらい。
“「ねぇ、大丈夫なの?つーちゃん」 もはやそれを聞くことで何を得たいのか、円佳自身も分からない。だが口は勝手に動く。成人し、子どもを産み育てている母親の口が我が子相手だと、こうも制御なく動くのだ。傷つけたいわけでも、プライドを損ないたいわけでも勿論なく、ただ自らの不安ゆえに思ったことを垂れ流す母の口を前に、息子は何を言えばいいのだろう。白い頬を持ち上げて、大丈夫だと答えるしかない” (P195「十歳」より)
ひでぇ親。
小学校の時同じ登校班だったS君は教育虐待されてた。
マンションの隣の部屋からは「こんな問題がわからないのか!」という父親の声と、S君の泣き声が響いてた。
ある冬の日、ベランダに出されたS君の泣き声が聞こえて、たまらず、私が自分の部屋のベランダから「どうしたの?」「大丈夫?」と声を掛けたら、S君の母親から「ほっといてください!!」と金切声で怒鳴られた。
夜遅くまで勉強させられているようで、毎朝登校班に遅れていた。私はS君を迎えに行き、遅れて一緒に登校していた。
ちいさくておとなしい男の子。
青白い顔のお父さんとお母さんの一人っ子。
私はこども心に「隣の親やべぇ」って思ってた。
私は転校した後もその子のことが気になってた。何年か後、母からその子が名門中学に行ったと聞いた。母が「あんなに勉強させられて、大丈夫かしらねぇ、変な親だったねー」と言った時、「おいおい、大人だったら、隣のこども助けてやれよ」って思ったな。
S君、この本の表紙の翼君とよく似た顔の男の子だったな。
背が小さくて、白い顔の子だった。整った顔だった。ほとんど笑わない子。
朝迎えに行く時、その子に笑ってほしくて、私はお姉さんぶって精一杯優しくしたり笑わせた。S君のはにかんだ笑顔がかわいかった。
あの学校を卒業して、今何してるのかな。
親なんか捨てて、羽ばたいていてほしいな。
そういえば、虫取り籠と網を持ったS君と父親にマンションのドアの前で会ったことがあった。覇気のないおとなしそうなお父さんだと思った。S君は嬉しそうだったな。
虫取りとかするんだなって意外に思った。
S君のお父さんもお母さんも〈一生懸命〉だったのかもしれない。
この本の母親は翼の個別指導料を稼ぐために、ホームセンターでパートを始める。
そこで、お客さんから商品のこともっと勉強しなさいと言われるシーンがある。
これ、大事よなぁ。
働いていると、自分の未熟さを日々痛感するもの。
この本には色々思うところがあって…
翼君に、
母親が「女の子に負けちゃだめじゃないの」と言ったり、
父親が「男のくせに」と言ったり。
両親の何気ない無意識のジェンダー意識にカチンと来る。
本を読むとカチンとくるのに、自分がそこに確実にいて。
なんかすごい本だった。
朝比奈あすかさん、この本を書いて下さって、ありがとうございました。
すごく貴重な読書体験でした。