今、ここに生き辛さを感じて、世界が灰色で、息が詰まって苦しかったら、旅に出てみるといいかもしれない。
自分の心に耳を澄ませて、自由に出かけてみるって素敵だ。
きっと、その旅が、今、ここの自分に色をもたらしてくれる。
この本を読んでそんなふうに思った。
『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』(若林正恭/著、文春文庫)、
面白かったー!!
この本は、
ひとつひとつの違和感に引っかかって、立ち止まって、その違和感の正体を見つけようと問いかけている筆者の思考や出会いの記録。
そして父への追悼の記録だ。
この本の中でたくさん好きな文章があるけど、なかでも離陸する飛行機でのここが好きだ。
“ぼくは飛行機に向かって、「行け、行け、行け!」と念じていた。ものすごいスピードで空港のビルが後ろに押し流されていく。それに重なってぼくの嫌いな言葉も進行方向からフェードインしてくる。「コミュ障」「意識高い系」「スペック」「マウンティング」「オワコン」…。どの言葉にも冷笑的なニュアンスが込められていて、当事者性が感じられない。それらの言葉も、ものすごいスピードで後方にフェードアウトしていく。
5日間、この国の価値観からぼくを引き離してくれ。同調圧力と自意識過剰が及ばない所までぼくを連れ去ってくれ。”(p.42)
格差社会、勝ち組、負け組、不寛容社会、新自由主義、資本主義…。
自分が住む社会システムが生み出す現象が息苦しさを生んでいる。
その〈システムを相対化するカード〉を手に入れるために、筆者は自分が経験したことのないシステムで生きている人たちの住むキューバに向かう。
前回のブログで引用した高橋源一郎先生の言葉を借りると、この本は私にとって〈親友のような本〉。
あぁ、同じ息苦しさを感じている人がここにいて、その息苦しさの向こうにあるものの正体を問い続けてる人がいるんだ…って思う。そのことが私の心を強くする。
この本を読み終えて、私の大切な人に伝えたい。
もし、あなたがただ世界にひとりぼっちだって思ったり、モヤモヤした思いに押しつぶされそうになったら、本を開いたらいいよ。
きっと親友のような本がどこかにあるよ。
役に立つとか為になるとかそういうのとは違う、近くで同じ苦しみを持ちながら、欠落を抱えながら、静かに、時に熱く語りかけてくれる本があるよ。
そういえば、読書って旅に似ている。
良い本は、狭い世界の中でグルグル悩んでいる私を新しい世界に連れて行ってくれる。新しい景色を見せてくれる。
本とともに、旅に出よう。